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なぜ今、チェンジリーダーが必要なのか(3)

人の意識や価値観が競争の主戦場に

WHYが鮮明な製品は、ユーザーの理念や信条を周囲に明確に伝える力をもっている。人々は会社のWHATではなく、WHYを買う。だからWHYを曖昧にしている企業は、低価格、特長の数、サービスや製品の品質といった操作で差異化をはかり、勝負せざるをえなくなる。

サイモン・シネック「WHYから始めよ インスパイア型リーダーはここが違う」

下の図の真ん中の三角形は、企業の価値創造やイノベーション実現のレイヤー(層)を整理したものです。通常イノベーションと言うと、この三角形の上の二層、つまり、「製品・サービス」の開発とそれを支える「技術・マーケティング」の継続的な刷新・高度化のことをイメージしがちです。しかし、「イノベーター」と目される一部の企業の動きを注視すると、彼らは、その下にある「制度・ルール」や、さらにその背景にある人々の「ライフスタイル・価値観」を変えることまで視野に入れ、それらをもイノベーションの対象として取り組んでいることが分かります。

顕著な例の一つが、ウーバー・テクノロジーズです。同社は、「所有から利用へ」というシェアリングエコノミーに軸足を置いたライフスタイル・価値観を全面に打ち出すことでユーザーからの支持を集め、各国でライドシェアを可能にするルール作りを進めてきました。テスラも、電気自動車という「製品」を作るだけではなく、化石燃料からの脱却というビジョンを掲げ、エネルギーやモビリティーにかかわる社会の仕組みや人々の生活習慣自体をアップデートすることを目指して事業活動を急速に拡大しています。「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というパーパスを掲げ、「LifeWear=究極の普段着」という斬新なコンセプトを打ち出して成長するファーストリテイリングも、上の図の三角形の一番下にある「ライフスタイル・価値観」の変革に軸足を置くことで、斬新な商品を開発して成長を遂げてきた企業と言えるでしょう。

このような企業は、固有の価値観や理想とするライフスタイルを打ち出し、その部分で顧客の理解・共感を獲得することに成功しているので、類似商品・サービスとの価格や細かい機能・品質などをめぐる過当競争に晒されるリスクも少なくて済みます。つまり、「賢い値上げ」をしやすいポジションを確保できているのです。

前回のブログでは、「無形」の資産を価値あるものにするという発想にこそ、「賢い値上げ」の本質があると述べました。「無形」の資産と言われるものの中には、特許やブランド、技術・ノウハウ、従業員のソフトスキルなどまで含まれますが、こうした「目に見えない」資産をただ羅列してみても価値あるものとは受け取られません。社会課題を解決して、より良い価値観やライフスタイルを実現するという「大きなビジョン」を示し、その実現に向けて、様々な資産をつなぎ合わせてこうやってイノベーションを起こしているのです、という「物語」を示す必要があります。そうした「物語」の信ぴょう性が、人々の理解・共感を生み、それがその企業の商品・サービスに「その他大勢」とは異なる固有の価値を感じさせる原動力になっているのです。それが積み重なって、資本市場での企業全体の価値の向上にもつながっているのです。

ファーストリテイリングのような例もありますが、総じて日本企業にはこうした「物語」を紡ぎだして発信する力が欠けているのではないでしょうか。それが、良いものをつくっても安売りしてしまう(ゆえに、労働生産性が上がらない)構造や、簿価プラスアルファ程度(ゆえに、PBR1倍を何とか上回るのが関の山)の企業価値評価しか得られない状況を生み出しているのではないでしょうか。

「良いものをより安く大量につくる」ことで評価され、成長できた時代のアタマの構造、経営のあり方、さらにそれを支える社会の仕組み自体を変えていかなければならないのです。そうした「チェンジ」の必要性を指し示し、それを推し進める「チェンジリーダー」が求められているのです。では、こうした変革をリードする「チェンジリーダー」に求められる資質は何なのでしょうか?

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