「スーパーホテル」はなぜ宿泊客満足度No.1を走り続けるのか
出張や行楽で遠出する機会が増えたという方も多いと思いますが、アタマが痛いのが高騰する宿泊費。そんな中、私が「イチ押し」なのが、スーパーホテルです。スーパーホテルは、J.D. パワー が毎年実施している「ホテル宿泊客満足度調査」の<エコノミーホテル部門>(1泊の最多価格帯9,000円未満かつ最多客室面積が15㎡未満の部門)で、何と9年連続でNo.1を走り続けています。
私は同ホテルを仕事だけでなく、家族との旅行などでも使います。理由はシンプルです。スーパーホテルは「安全、清潔、ぐっすり眠れる」をコンセプトにしていて、とにかく睡眠に配慮されたお部屋が素晴らしいこと。それ以外の余計なものが何もないこと。だから、単に価格がお手頃なだけでなく、満足度を加味したコスパが圧倒的に高いことです。
スーパーホテルを創業された山本梁介さん(現在・同社会長)は、1990年代後半にホテル経営に乗り出した「後発組」でした。山本さんは、ワンルームマンション経営で得た経験を活かし、創業当初からホテル業界の常識に真っ向から挑戦していきます。まず、「ノーテレホン」。当初から携帯電話の普及する将来を見越し、部屋に電話を設置しませんでした。次に「ノーキー」。マンションの玄関等で使われていた技術を転用し、ドアノブにテンキーをつけて暗証番号キーにしてしまいました。その結果実現したのが「ノーチェックアウト」。今でこそ当たり前になった自動精算を20年以上前から先取りして実行していたのです。余計なものは全て省くという山本さんの「わりきり」です。
他方で、スーパーホテルでは、様々なムダをそぎ落としIT活用なども進めることで生まれた余力を、「ぐっすり眠れる環境づくり」の実現に振り向けてきました。いち早く、数種類ある枕からお客様が自分に合ったものを選べるようにし、「ぐっすり研究所」という社内組織を立ち上げて研究を重ねてきました。使用するマットレスの独自開発から、館内・室内の照度・音楽・アロマの調整、窓の二重ペアガラス化、ドアのゴムパッキンの改良、冷蔵庫の静音タイプへの変更などまで、快眠実現に向けた山本さんの「こだわり」はとどまるところを知りません。さらに「品質保証宣言」を公表し、「安全・清潔・ぐっすり眠れる」が実感できなければ、宿泊料金を全額返金するという徹底ぶりです。
お客様の視点に立った徹底した「こだわり」と大胆な「わりきり」のコンビネーション。山本さんが創業当初から掲げ続ける明確なビジョンは、スーパーホテルの従業員の発想や行動の軸となり、現場での不断のサービス改善を可能にしてきました。同社独自の「ベンチャー支配人制度」を通じて夢と意欲のある人材を広く募り、彼らをビジョンに即した公正かつ客観的な指標で評価・育成してきたことも、継続的な改善を進める原動力になってきました。
筆者は今から10年余り前に山本さんの講演をお聞きしたことがあるのですが、その際に「マニュアルで不満は減らせてもお客様の感動は作れない」、自分の仕事は「知識と技術は全体の3割、残りは経営理念の浸透と自律型感動人間の育成にエネルギーを注ぐ」と熱く語られていたのを今でもよく覚えています。サービスの現場でお客様に感動を与えるには、マニュアルをこなすだけの人間ではなく、状況に応じてさまざまな発想ができ、何をすればいいかを自分で考えられる人間=「自律型感動人間」を育てなければならない、というチェンジリーダーとしての強烈な使命感が伝わってきます。
チェンジリーダーには、高邁なビジョンを掲げるだけではなく、周囲の人々をInspireし、自発的・双発的な意識・行動変革の輪を増殖させていくことが求められます。山本さんの「こだわり」と「わりきり」は、単なる個人のビジョンを超えて、スーパーホテルの運営に関わる全ての人々をInspireし、彼らの意識・行動を変えることで、お客様に高い満足と感動を与え続けているのです。
ついでながら、「こだわり」の無い「わりきり」は「手抜き」になる、という言葉もあります。くれぐれも、ご注意を!
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