チェンジリーダーに求められる発信力を考える
今さら自民党総裁選がどうしたって言うの?と思われるかもしれませんが、日本のリーダーの発信力という観点からみて、色々考えさせられる点がありましたので一筆啓上します。今回の選挙結果を企業にたとえると・・・スキャンダルですっかり評判が落ちた自民党株式会社の立て直しにむけて、年功や部門の壁を取り払って「社長公募を実施します!」と発表したところ、老若男女多数の立候補者が集まり熱戦が繰り広げられたという感じです。
当初から勝ち馬として有力視されていたのは、組合の青年部長のK氏と先々代社長に引き立てられた女性役員のT氏、それに、過去に専務まで務めたことはあるものの左遷されリタイアも近いとみられていた元役員I氏の三名。T氏とI氏が決戦投票に勝ち残り、「T氏だけはご免だぜ」と焦った多数派の票が一気にI氏に集まり、I氏が予想外の(?)勝利を収めたという次第。
他方、現役の専務や常務クラスも多数立候補されていたのですが、総じて鳴かず飛ばずでした。キャリアや経験から考えると、この辺の人たちがもう少し票を集めても良かったのではないかと思いますが・・・日々「社内政治」に明け暮れていらっしゃるためか、難しい政策の話は上手でも、彼らの語りには一般顧客である国民のハートに刺さるようなメッセージ性がなかなか感じられなかったのです。だから党員・党友票の多くは彼らを素通りしていきました。
普通の民間企業でも、仮に「社長公募」をやったりしたら似たような結果になるのでは。仕事は凄く出来て社長に「次」を嘱望されている副社長や専務が、平場で一般顧客や株主と対話してどの程度アピール力を発揮できるかというと、そんなトレーニングを受けていないので、全く話が通じなくて票が集まらないということになりそうです。実際には「社長公募」なんかする訳ないので、そういう副社長や専務が順送りで社長になっていき、その結果、いつまでたっても株価も上がらないということなんではないでしょうか。
もし社内で選挙があるとして、君たちは部下から選んでもらえるか? 選ばれるためには何をしなければいけないのかを考えてくれ。 (元ソニーグループCEO 平井一夫氏の言葉)
自民党も民間企業も、本気「次」を狙うポジションにいる方々はもっと発信力を鍛えるべきだと思います。実力があって仕事ができるのに、人前での喋りが今一つで評価されないというのでは、何とももったいないではないですか。センスの良さそうな同僚や知り合いを何人か集めて自分で話してみて、「俺の言ってること分かるか?」と尋ねて、ズバズバ意見をもらって言葉や話し方に磨きをかけるだけでも、相当な違いが出てくることは間違いありません(皆さん、「先生」のプライドが邪魔して、そんなこと多分してないだろうな・・・)
米国大統領選では、カマラ・ハリス氏が予想以上に善戦していると伝えられていますが、スピーチライターやコーチを何人もつけて日夜特訓を繰り返しているに違いありません。リーダー候補である以上、そして公開のスピーチや討論で勝敗がつく大統領選を戦う以上、そういうことに時間とお金をかけることは当たり前という発想だからです。米国系大手IT系企業の役員を務めた方に聞いた話ですが、その企業では部長手前くらいの段階から毎年幹部候補メンバーに厳しいコミュニケーションのトレーニングが課され、傾聴と適切な自己アピールの技術を叩き込むのだとか。リーダー(とその候補者)の発信力向上に向けた投資という点において、彼我の差は実に大きいのです。
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