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「変わらないもの」を示すのもチェンジリーダーの仕事

激しい変化の中で「常なるもの」を見定めることの重要性

現代人には・・・(中略)・・・無常という事がわかっていない。常なるものを見失ったからである。

小林秀雄「無常という事」

Amazonの創業者であるジェフ・ベゾス氏はかつて、「今後10年間に何が変わるかを問うよりも、何が変わらないかを問う方がより重要だ」と述べています。参考までに、英語原文を付記します。

“I very frequently get the question: ‘What’s going to change in the next ten years?’ And that is a very interesting question; it’s a very common one. I almost never get the question: ‘What’s not going to change in the next ten years?’ And I submit to you the second question is actually the more important of the two — because you can build a business strategy around the things that are stable in time.1

その上でベゾス氏は、顧客が変わらず求め続けるものとして “Low prices, fast delivery, and vast selection”、すなわち「低価格、迅速な配達、豊富な選択肢(品揃え)」の3つを挙げ、これら「変わらないもの」に照準を当ててすべての戦略を立て、それを実行することを徹底してきたと言われています。

チェンジリーダーというと、何もかも変えてすべてを刷新することにのみ全力を注ぐ人というイメージがあるかもしれません。しかし、前例にとらわれずに変革を進める一方で、「これだけは絶対に変わらない」、あるいは「変えない」というものをしっかりと見定め、それを言葉にして伝えていくこともチェンジリーダーの重要な仕事なのです。そうした「不変の軸」が明確になることで、逆にその他のものについては、思い切って捨てたり変えたりすることが可能になるからです。ベゾス氏の上の言葉は、まさにAmazonが他に先駆けて積極的にイノベーションを起こしていくための軸として発っせられました。

昨今様々な企業が「パーパス」を掲げ始めていますが、これは、聖域なき自己変革を加速させる一方で、その際に軸とすべき自社にとっての「変わらないもの」を見定める取り組みとみることもできます。多くの企業のパーパスが、創業時の志(こころざし)にまでさかのぼって社会の中での自社固有の立ち位置を確認しつつ、それをこれからの時代にむけてアップデートする形で練られているのもそのためです。

例えば、ソニーの掲げるパーパス「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動 (KANDO) で満たす」は、以前ご紹介した同社の「設立趣意書」のエッセンスを継承しつつ、これからの社会でソニーが果たすべき役割を表現しています。また、味の素のパーパス「アミノサイエンス®で、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」も、同社の「創業の志」を下敷きにしつつ、Well-being への貢献というこれからの方向性を積極的に打ち出したものになっています。

ビジネスを取り巻く環境の変化のスピードは増す一方で、目の前の現実はまさに「諸行無常」の極みと言えます。こうした中で一喜一憂を繰り返していては、それこそ浮草のような存在になってしまいかねません。信念をもって「常なるもの」を打ち出し、それを軸として無常の中に明晰で希望のある勝ち筋の方向性を指し示すことが、チェンジリーダーの重要な役割なのです。

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  1. https://www.inc.com/jeff-haden/20-years-ago-jeff-bezos-said-this-1-thing-separates-people-who-achieve-lasting-success-from-those-who-dont.html ↩︎